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※オトナの事情により、このブログにはいくつかのウソが混じっています

サイケデリック中二病

ブログ更新が滞っていた事情と宗教施設からMDMAを盗んだ話

投稿日:2019年9月2日 更新日:

vapemania728*90

久しぶりにブログを更新します。非常にドタバタしていました。LINEやSNSも見れてなくて、皆さんご心配をおかけしました。とりあえずは大丈夫かと思います。

ここしばらくの話を書く前に、重要な人物をふたり紹介します。長くなりますが、どうぞお付き合いください。

ナオ

ひとりはナオという女の子です。友達が北海道でオーガナイズしているパーティへ遊びに行ったときに紹介されました。フロアでいきなり肩を叩いて話しかけられたので、かなりキョドってしまったと思います。

「マガラくん東京だよね?この子、もうすぐ東京へ行くから」
「坂木ナオって言います!いまハタチです!よろしくお願いします!」

クラブという隔離された空間、音楽とダンスで得られるすべてとの一体感は、人と人とを近づけて、気軽に仲良くなれる力を持っています。もちろん、「ここにいる」ということは何らかの秘密を共有しているわけで、話さなくても分かるというのもあるわけで。

ナオは俺の横でピョコピョコと踊りながら、たまに俺の耳に口を近づけて「楽しいですねー!」みたいなことを喋りかけてきました。俺も「そうだねー!」なんて返しつつ、足下に水のペットボトルを置いたまま踊り続けました。

朝になるにつれ、フロアには人が増えてきました。個人的にはクラブは夜通し戦うものと考えているけれど、一部には「終わるころにやって来て女の子をナンパしていく」ような輩もいます。気がつけばナオのまわりにも数人の男がいました。

まぁ、別にどうこうする間柄でもないし、十分楽しんだし、いろいろ挨拶でもして帰ろうかと思って、一応ナオにも「じゃ!」みたいな感じで肩を叩いて目配せすると、「連絡先交換してください!」と言われてしまいました。

いまの瞳孔にはまぶしすぎるケータイ(当時はスマホではない)の画面を見ながらアドレスを交換して、「東京でも遊んでくださいね!」みたいなことを言われて別れたのでした。

それから数ヶ月間は何の連絡もなく、ほとんど忘れかけていたころ・・・

「東京で暮らし始めてます!踊り行きたい!」

と、連絡が入りました。

ナオは地元の専門学校を卒業し、東京のデパートで働き出したとのこと。

んー。あんまり女の子と一緒にクラブに行くのは得意じゃないんだよなー(布団で過ごすのは好き)。ただまぁ、こっちに知り合いがいなかったら敷居が高いかもだし、変なのに捕まったら大変だし、別のに捕まっても大変だし、半ば保護者のような気持ちで、とりあえず渋谷で待ち合わせをして、某アーティストが出演するという、新しくオープンしたばかりのクラブへ行ってみることにしました。

これが失敗だった!

たぶん、やってた某アーティストもやりづらかったと思います。「ダンスミュージックが盛り上がっているぞ」と聞きつけた企業が丸投げで作ったようなハコで、なぜかスーツ族もたくさん。ただのダサすぎる酒ノリはサケデリックでさえなく、シラフでもBADにしかならない雰囲気を持っていました。

ナオもそれを察したらしく、

「ここ微妙だし、よかったらウチで遊びます?」

と言ってきました。

「ウチ? 家?」
「はい。東北沢なので、ちょっとお散歩気分で歩けば歩ける距離ですよ」
「んー。なんかゴメンね微妙で」
「いいですよぉ!私、ずっと実家暮らしだったから、誰かを家に呼んで遊ぶのって憧れだったんです」

ふたりでテクテクと歩きながら、ナオはたまに小走りになったり、ジャンプしたり、俺がそんなことをやっていたらすぐに職質されそうなものなのに、ナオはとても自由でした。先に行ったかと思うと、いきなり振り返って片足を伸ばし、

「これ、何だか分かりますー?」
「え?何?」
「ホフマンー!自転車乗ってるときのー!」

と、大声で叫んだりしました。

その日はナオが引越し荷物と一緒に持ってきたという道産子を燻らせつつ、他愛もない話をして、気がついたら眠っていました(道産子パワー?)。目を覚ましたとき、ナオがかけてくれたであろう、ありったけのタオルがお腹の上にありました(セックスはしていません)。

F証券

もうひとりの登場人物は、F証券さん(本名は知らないのです)。きちんとした証券会社で働く、外見一流サラリーマンだけど、いつも極上のネタを用意してくれるすごい人でした。

F証券さんは学生時代に格闘技とバックパッカーの旅に明け暮れていたらしく、ガタイもゴツイし、ジョイントも太くて固め。でも、水晶で作られたクリスタル・チラムでハッシシを吸うのが一番のお気に入りというココロ優しい人でした。

「マガラくん。こうやってハッシシを吸ってるじゃん? このハッシシ、誰かが持ち帰ってくれたものなわけですよ」

F証券さんの会話はたまに敬語が混ざるのが特徴でした。「マガラくんをリスペクトしてるから」とのこと(はて、リスペクトされる要素なんてあったっけな・・・)。

「そうですね。国産のハッシシってあんま聞いたことないですね」
「そう。はるか異国の地で、誰かが手でこねてくれたハッシシを、さらに誰かが持ち帰ってくれているわけですよ」
「腹の中ですかね?」
「そう。そうなんだけどね。そこでね、ジャンキー野郎のウンコの中から発掘されたハッシシと思うより、パイパン女子の膣の中で熟成されて産まれてきたハッシシと思った方がキマりがよくなるじゃない!?」

F証券さんはたまにワケの分からないことを力説する癖がありました。

「なんだったらそこでさ、膣に入れたいんだけどなかなか入らなくて、ちょっとオナって濡れてからにしようかなとか、ハッシシにもその液がちょっと染み込んでないかなとか」
「いやいや、密封してないとマズいんじゃないですか?」
「たしかに、膣の中で液を吸いすぎてドロドロに溶けたら、その染みパンを吸うことになるかもね!やっぱ大卒はアタマいいなー」
「F証券さんだって大卒でしょ!」
「あんなの、シャブ食ってただけだから!」

ウマコケ

F証券さんから「ウマコケ」について聞かされたのは、原発が吹き飛んで2週間が経ったころでした。

「マガラくん、ウマコケって知ってるよね?」
「某宗教団体が作ってるMDMAですよね。何度か食ったことあります」

摂取すると、まるで「生まれたてのコケシ」のようにピュアな笑顔になることから、「ウマコケ」の俗称が名付けられた黄色い錠剤。某宗教団体が信者の獲得のために密造しているという都市伝説があり、たまにアンダーグラウンドシーンでも流通していました。

「さすが話が早い!まさにそれ。でも、どこで作ってるかまでは知らないよね?」
「それは知らないです」
「実は・・・モロに避難区域内にある施設なんだよね」

F証券さんの話はこうでした。ウマコケを密造している某宗教団体の施設は原発事故の避難区域内にあったため、半ば強制的に全員が避難させられた。ということは、その施設の中には大量のウマコケが残ったままなのではないか? それを我々でごっそりいただこうではないか、と。

「いやいや、さすがにそれは避難する前に破棄するか、持って出てるんじゃないですか?」
「そう思うじゃないですか。でも今回、最初は「すぐに帰れるんで、とりあえず急いで避難して」という感じだったらしいのよ。洗濯物を干しっぱなしで避難した人もいるくらい。そしたら、避難先で「もう帰れません」みたいなことを言われて、かなり混乱してるっぽいんだよね」
「んー。でも、信者がコッソリと取りに帰ったってことはないですか?」
「それもまずないかな。ヤツらの予言によると、まもなく東京は消滅するらしく、石垣島に教祖も信者も全員移動したんだって」

こういうときのF証券さんの情報収集能力はすごい。

「でも、警察が警備してますよね?」
「それは民家があるエリアの話。人里離れた場所の宗教施設なんて誰も守らないよ。地元から鬱陶しく思われてた団体だし、そんなところへ回せる人間がいるなら、ちょっとでも復旧作業を手伝わせるでしょ」
「検問とかは?」
「教団施設のまわりはみんな私道。信徒さんの修行の一環で作られた道なのであーる。私道は警察の影響が及ばないのであーる」
「そうだったんですね・・・」
「でね」
「なんですか?」
「1000人くらいの信者がいるわけだから、ひょっとしたら1万発くらいあるのかもしれないんだよ。一発3000円で売れるとして、いくらになると思う!?」

F証券さんの声が高ぶっています。

「じゃ、決行は金曜の夜で!これは救済活動である!」

サイケデリック・バス・ツアー

俺はこのころ、「余震が怖いから一人でいたくない」というナオのヘルプを受け、どう見てもボロい我が家から、耐震性の高そうなナオのマンションへ半居候状態になっていました。

「金曜から、F証券さんと被災地に行ってくるよ」
「え? 何それ? 大丈夫なの?」
「うーん。まぁ、救済活動というか」
「ふたりで? なんでマガちゃん誘ったんだろ?」

その理由は聞いていました。F証券さん曰く、「だってマガラくん普通だもの!怪しまれないために一番大事なのは、にじみ出る普通っぽさ!」とのこと。

「月曜日までには戻ってくると思うんだけどさ」
「えー。私、月曜は仕事に行っちゃってるよ。ケガとかしないでね」
「うん。とりあえずパッキングしなきゃだから、一度自宅に戻るね。また連絡するから」
「はーい」

結局、ウマコケのことはナオには言えませんでした。

金曜の夜。

「なんすかその車!」

待ち合わせ場所には、ド派手なピンクのワゴンが止まっていました。車体全体に「がんばろう!」とか「応援しています!」というメッセージがマジックでびっしりと書かれており、ほとんど狂気の沙汰。

「いいでしょー。中も見てみて」

ツナギ姿のF証券さんが楽しそうにドアを開けると、「生理用品」や「女性用下着」と書かれた巨大なダンボールが山積みになっていました。

「どっから見ても救援物資を抱えたボランティアでしょ。もし検問があっても、さすがに生理用品や女性用下着のダンボールをひっくり返して検査しないだろうし、どっちも柔らかいから内側に何でも詰められるってわけですよ」
「じゃ、一応は生理用品とか入ってんですか?」
「もちろん!この日のために買いそろえたし、この文字だって全部ひとりで書いたんだよ!」

さすがだ。さすがすぎる。

「じゃ、さっさと出発しますか」

うん。この場所にいるのは恥ずかしすぎるし、早いところ出発しましょう。

「あれ?この車、ナビは付いていないんですか?」
「もちろん!だって俺たちは道に迷って、なぜか教団施設へたどり着くわけだからさ」

マジか・・・。

「あ、マガラくんスマホにしたんだよね?」
「そうですよ。スマホもナビみたいに使えますよ」
「じゃ、早めにバッテリーをゼロにしといて。電波がつかめる状態のままだったら、後から探られなくもないからさ」
「え? ナビもスマホもなしってことですか?」
「そう。一切の記録が残らないようにするためにね」
「マジですか・・・。でも、道順は大丈夫ですか?」
「完璧に記憶しているからお任せあーれー。キメキメの記憶力には自信があるのです。尿検には自信がないけどね」

安心してよいのか、不安に思うべきか。F証券さんの運転で高速に乗ると・・・まわりは巨大なトラックばかり。一般車なんてまるで走っていませんでした。

「マガラくん。これが現実ですよ。みんな、お金は出しても現場には向かわない。そりゃさ、寄付するのも立派だと思うよ。でもさ、俺たちは現場の近くに住んでるわけじゃん。まぁ、歩いて行けるほど近くじゃないけれど、車があれば行ける距離のところに住んでるわけじゃん。そして、俺たちは健康な体と柔軟な思考を持っているわけじゃん」
「健康な体と柔軟な思考・・・」
「寄付だったらさ、小学生でも、じいちゃんでもできるじゃない。孫正義なんて10億出したんでしょ? 反対に、小学生やじいちゃんは現場に行きたくても行けないわけよ。あとさ、健康な体を持っていても、放射能が怖いとか、自分じゃ役に立たないとかばかりで、状況を客観視できない思考回路の人間もいるでしょ」
「まぁ、そうですね」
「自分が一番活躍できる場面は何か?ってのを考えながら生きてたいし、何年後かに後悔しないためにも、俺はなるべく現場にいたいんだよね。」
「F証券さん、カッコいいっすね」
「で、考えた結果がウマコケをいただくってことなんだけどさ!」
「そ、それもカッコいいのかな・・・?」

気がつけば、車はどんどんスピードを上げていました。「スピード違反なんて誰も取り締まってないぜー!」とか言いながら、スポーツ車でもないのに150キロ近い速度で暗い高速を走り続け、とあるインターから下道へ。

「ちょっと早く着きすぎちゃったし、ここらで休みますか」

地方都市にありがちな、ただひたすら広い公園の駐車場に車を止めました。

「俺は疲れてないし、運転変わりましょうか?」
「いやいや。夜のうちに到着するとライトの明かりで遠くからでもバレてしまうんで、日の出までは時間を潰さないと」
「なるほど」

シートを倒して横になりました。

「マガラくん。オトコふたりで狭い車内ってのも息苦しいし、空いてるダンボールもあるから、やっぱり外で寝ますか」

外に出ると頭上には満点の星空。こんな星空、いつぶりだろう。ナオにもちょっと見せたかったな。北海道の星空もこんな感じなのかな(俺が北海道にいたときは毎晩クラブで遊んでいたため、まともに星空を見ていないのでした)。

「ダンボールを敷いて、車の下に体を入れて寝るといいよ。大阪のオッチャンがよくやってるスタイル」

ナオに連絡したかったけど、スマホの電池はとっくに空っぽでした。

朝。公園の水道で顔を洗って一服。

「じゃ、そろそろ本拠地へ向かいますか!」

下道を走ります。

「そういえば、施設に着いたとしても、どうやって中に入るんですか? カギかかってますよね」
「そんなのバールでひと破り!」
「え? バールのようなものを持ってきてるんですか? 見つかったらヤバイじゃないですか」
「いやいや、被災地ボランティアにバールは必須だよ!フローリングを剥がしたり、壁を壊したり」
「F証券さん、詳しいですね」
「実はちょいちょい来てたんだよボランティア。教団施設の場所もそこで聞いて」
「え? そうだったんですか?」
「自宅でじっとしててもパラノるだけだしさ」

F証券さんの声が、どことなくさみしそうに聞こえました。

「それなら俺も誘ってくださいよー」
「そうだねー。でも、ボランティアに否定的な人もいるから、おおっぴらには言ってなかっただけだよ。車もさ、最初はレンタカーだったんだけど、レンタカーを借りるときって、行き先を伝えなきゃじゃん? あれで、被災地に行きますとはなかなか言えなくてさ」
「そうなんですか?」
「被災地からやって来る車は放射能汚染されてるとか言う連中もいるからさ」
「んー」
「だから、中古で買っちゃったってわけ!」
「え? このために買ったんですかコレ?」
「ウマコケさえ手に入れば、ポルシェだって買えるからさ!」

下道の幹線道路。カツ丼屋、回転寿司屋、バッティングセンター、中古DVD屋。どこにでもありそうな地方の幹線道路は大型トラックが走るばかりで、生活の気配を感じられませんでした。

「よし、ここから道を間違えるぞ。いざウマコケへ!」

小道へと入って行きました。進むに連れて舗装がどんどんボロくなり、ついには未舗装の土の道へ。

「この道はさ、経行(きんひん)という歩く瞑想のために信者たちが作ったらしいよ。彼らにしてみたら、日本という国が作った道なんかじゃ瞑想できないってことだったのかもね」

道の両脇には背の高い草が茂り、見事に外界と遮断されていました。

「教祖さまにすれば、せっかく作った場所や物を捨てるのはもったいなかっただろうけど、自分が終末思想を唱えていたからねぇ。大丈夫とは言えなかったんだろうねぇ」

それにしても長い。こんなに長い道を歩いて瞑想? 何時間かけて歩いていたんだろう?

「見えた!あれだ!」

道が開けました。宗教施設というから、どれだけ立派な建物かと思っていたけれど、平屋の建物が3つあるだけでした。大きいけれど、ずいぶんと質素です。

「もっと立派なのを想像してましたよ」
「ははは。ココは奉仕の作業をするための場所だから、ほとんど工場みたいなもんだね 」

建物の前に車を止めました。人の気配は感じられません。

「・・・あれ? やられた!」
「どうしたんですか?」
「誰かが先に来てる!ほら、入口のとこ壊されてる!」
「マジか・・・こんなとこまで・・・」

自分たちも火事場泥棒ではあるけれど、この状況でこんなところへ泥棒に来ているヤツに嫌悪感が湧きました。

「いや、ウマコケのことはほとんど知られていないはずだから、残ってるかもしれない。カギを壊す手間も省けたし、とにかく行ってみよう」

F証券さんは車を降り、砂利の道を歩いて建物へと向かっていきました。ジャリッ、ジャリッという音だけが聞こえます。後に続きます。

最初の建物。

机と椅子がたくさん並べられた、会社のオフィスのような部屋。ひょっとしたら、机の上にはパソコンがあったのかもしれないけれど、先に盗られたのか、ただ机と椅子がたくさん並べられただけのガランとした空間でした。

「ここは・・・なんか違う気がする」

次の建物に移ります。

柔道の試合をやってそうな、ビニールレザーの畳張りの部屋。部屋の両端には毛布が丸められていました。

「ここに寝泊まりしていたのかな」
「でも、生活感がほとんどないですね・・・」
「まぁ、彼らは修行者だからね。ある意味、すごくマジメでストイックだよ。身寄りのない老人とか、精神的に大変な人とか、家出少女とかの受け皿にもなってたし、ウマコケを使っているのも修行ってば修行だろうし、悪い存在じゃないと俺は思うんだけどね」
「でも、なんか違う感じですね」
「お! マガラくんも冴えてきたのかな。俺もそう思ってたところ」

最後の建物に移ります。

ステンレスのシンクやガスコンロ、大きな棚がある、厨房のような部屋。信者たちの食事を作っていたのでしょうか。「ジャガイモ」や「人参」と書かれたダンボールが棚の中に並べられていました。

「あそこ・・・あやしいぞ」

F証券さんが指さした先には、メーターが付いた大きな圧力鍋のようなものと、酸素ボンベのようなものが並んでいました。ジャムの瓶を100倍大きくしたようなポリタンクも。そして、横にある棚の中には半透明の衣装ケースが。

「ビンゴ! これだ!」

衣装ケースの中には、黄色い錠剤がみっちりと詰まったジップロックの袋が何袋も入っていました。

「これに間違いない!いちにいさんし・・・おいおい、どんだけあるんだよ!」
「す、すげぇ・・・」
「やったなーマガラくん!」

ふたりで強く握手。

「こんなにシンプルに置いてあると思いませんでしたよ」
「ヤツら、そういうところ適当なんだよね。あれ?」

F証券さんの表情が変わりました。

「どうしたんですか?」
「いや、前に出回ってたのとデザインが違うなと思って。前のはほら、Flower of Lifeみたいな丁寧な刻印だったじゃん」
「そうですね。それは食ったことあります」
「これ見て。梵字になってる。えーと・・・全部梵字だ」
「んー?」
「マガラくん、梵字の意味って分かる?」
「さすがに分かんないです・・・」
「んー。でも、これに間違いないはず。梵字の市販薬なんてないし、ここにこうやって置いてあったわけだし。いま食っちゃうと大変だから、あとでひとつだけ潰してみよっか」
「そうですね。早いところ出ましょう」

衣装ケースからジップロックの袋を頂戴し、車に戻ることにしました。たくさんあったのに、ひとり3袋ずつ。

「せっかく来たのに残して帰るんですか? 全部もらっていきません?」
「全部取っちゃうとさ、いかにも取られました!って感じだし、ひょっとしたら次に誰か別のヤツが取りに来るかもじゃん。そういう人をガッカリさせたくないからさ」
「ホントやさしいですよね、F証券さん」
「ネタは天下の回りものだからね! あとほら、これを売るときに、ネタの出所が俺とマガラくんしかいない状態より、いろんなところから出回ってた方が何かと安全だしね」

建物を出ると、急に現実感が沸いてきました。自分たちは避難区域内で窃盗を行っている!

「とりあえずソレ、ダンボールの中に入れて。ここから移動しよう」

車を運転します。ついさっき通った道なのに、ほとんど平坦なはずなのに、道路がグニョグニョと歪んで見えました。脳内麻薬が出まくっているようです。

「ふー」

経行(きんひん)の道を抜けて幹線道路まで戻ると、少しだけ気持ちが落ち着いてきました。車を止めて一服。いつも以上に肺に止めます。

F証券さんが煙を吐き出しながら言いました。

「よし!マガラくん。被災地ボランティア行きますか」
「え?」
「だって生理用品とか持って帰ってもしゃーないでしょ。ナオちゃんひとりで使える量じゃないよ」

なんとなく、俺とナオが仲良しなことを気づかれているようでした。

「いただくものはいただいて、届けるものは届ける。1時間くらい走ったところにボラセンあるからさ」

再び、F証券さんの運転でボランティアセンター、通称ボラセンへ向かうことに。

「にしても、F証券さん某宗教団体について詳しいですよね」
「マガラくんは教団が積極的に勧誘活動をしていた時代とはギリギリ世代が違うから知らないかもだけど、俺が学生のころは教祖を学際に呼んだりしてたし、実際に入信した友達なんかもいたんだよね」
「え、そうなんですか?」
「俺はそういう勧誘を受ける前から自分でいろいろネタを食ってたんで、何を言われても、何をされても、あー、アシッドの効果ねーとか、タマのノリだよねーとか分かってたけど、純粋な人ほど感動してて。だから、日本のドラッグ教育はもっと実体験を元にしなきゃダメだってずっと言ってんだけどね」

確かに、日本のドラッグ教育は童貞が性教育をしているようなものだから、チグハグさがたくさんあります。

「でも、彼らは自分たちがMDMAを作ってるっていう自覚はなかったんですかね?」
「ほとんどの信者はなかったと思うよ。とりあえず「入れ物」としての錠剤を作って、そこへ教祖様がマントラを唱えて修法することで、秘密の力が宿るって考えてたみたい」
「無知って恐ろしいですね」
「ホントそうなんだよね。あと、日本人がイメージするドラッグって、暴力的になったり、依存して廃人になったりってのが多いから、まさか生まれたてのコケシみたいに愛が深まって、一晩すればすっきり抜けるものがドラッグだなんて思わなかったのかもね」
「あー、そうかもしれませんね」
「で、ごく一部の、そういうのを知っている信者がウマコケを横流しして小遣いを稼いでたっぽいね」

ボラセンは地域の公民館の中にありました。駐車場にはたくさんのテントが張られています。

「そのテントはボランティアスタッフが寝泊まりしているところ。ここはテントも張らせてくれるし、トイレも水道もあるし、ちょっと行ったら温泉もあるし、ボランティア入門にはよいと思うよ。ナオちゃん連れて来てみれば?」

F証券さんはダンボールの中からウマコケの入ったジップロックだけを取り出し、さっとバックパックの下に隠すと、ダンボールを担いで建物の中へ入っていきました。俺もひとつ担いで、後に続きます(生理用品はダンボール一杯でも軽い)。

「じゃ、これ物資です。目録はココに書くんですよね? 次のとき、また必要なものあれば教えてください」

そして、F証券さんが何か書類をもらっていました。

「よし、と。これ、ボランティア活動の証明書。これがあれば高速道路はタダだし、我々がボランティアのために、道に迷いながらもココまで来たということが証明できるわけですよ」
「あれ? でもF証券さん。ダンボール系を全部渡しちゃったから、ウマコケがバレバレになってないですか・・・?」
「ふふふふ。マガラくん、もう一仕事だけしてもらうよ」

車に戻ると、F証券さんはバックパックの中から「辛ラーメン」のカップ麺をいくつも出してきました。

「なんですかソレ?」
「見ての通り、辛ラーメン。中身は空っぽにしてあるんだけどね」

F証券さんの話はこうでした。まず、ウマコケを辛ラーメンのカップの中に入れ、フタをのり付けする。

そして、我々が週末を使って被災地ボランティアに行ったら、「支援物資として辛ラーメンが届いたのだけど、ここら辺は年寄りばかりでカップ麺は食べないし、辛いものが苦手なので余ってしまっている。ボランティアのお礼に受け取ってくれ」と言われて、本当はお礼なんてもらっちゃダメなんだけど、好意に甘えさせてもらった、というストーリーのできあがり、と。

「F証券さん、そういうアイデアっていつ思いつくんですか?」
「それ聞く? しばらく辛ラーメンばっかり食べて大変だったんだよ!」

I CAN (NOT) FLY

無事に持ち帰った辛ラーメン(ウマコケ)は、F証券さんとキッチリ山分けしました。

「この量あると、マジで辛ラーメン的に鍋にブチ混むレベルだよね。AKIRAにあったよねそんなの」
「いやー、楽しみですねぇ」
「今日はお疲れ!また遊ぼうねマガラくん-!」

F証券さんはド派手な車で去って行きました。どうか職質されませんように。そういや、「あとでひとつだけ潰してみよっか」という話は、すっかり忘れてしまってました。

しかし、ネタというのは大量にありすぎると、逆に食べなくなるものです。そして、どうせ食べるならナオと一緒のときがいいなと思いつつ、「窃盗で手に入れた」という事実を言い出せないまま、辛ラーメンのウマコケはオナホ等と一緒に隠したまま、日々が過ぎていきました。

ある日。

「あれ? 珍しいな」

スマホのメッセージを開いたナオ。いきなり顔が真っ青になり、震えながら伝えてきました。

「F証券さん、死んだって・・・飛び降りで・・・」
「え? 何言ってるの? 誰から?」
「F証券さんの会社の人・・・」
「何それ? なんでナオにF証券さんの会社の人が連絡してくるの?」
「えと、マガちゃんには黙ってたけど、F証券さんが社会人合コンしたいって言って来たことがあって、そのときに・・・」
「えええ? マジの話???」
「マジ・・・大マジ・・・」
「何か食ってたのかな。分かる?」
「そんなの分かんないよ!F証券さん、会社だとふつうにしてたんだから!」

ナオの目から涙が溢れ、その場にへたり込んだ。

F証券さんが死んだ? しかも飛び降りで? なに食ってたんだ? あのF証券さんが、ちょっとやそっとのことで負けるわけがない。なんだ? なんだ?

「ウマコケ・・・」

ナオがつぶやいた。

「ウマコケだよ!それ以外で飛び降りるわけないじゃん!絶対にケミカルだよ!」
「え? 何でウマコケを知ってんの?」
「それも聞いてたの!マガちゃんが思ってる以上に、私だっていろんなこと知ってんだから!」

ヤバい。これはかなり恥ずかしい。

「えーとゴメン! いつかちゃんと話そうとは思ってて」
「それはいいから別に! いま大事なのは、ウマコケってMDMAじゃないんじゃないってこと! 前のとは刻印も違うんでしょ?」
「MDMAじゃなければ何?」
「パラノらせる毒だよ! だって、終末思想を持っていた団体が作ってたものでしょ!?」
「いやいやいや、とりあえず落ち着こうよ」
「ねえ!捨てて!盗んだものってバレても大変だよ!」

ナオが泣きながら叫んでいる。

「落ち着けって! 中身が分からないなら俺らも食ってみようぜ。食えば分かるだろ!」
「マガちゃん・・・マガラくん・・・」

ナオが真っ赤な目をして見つめてきた。

「私、もうケミカルは取らない」
「え?」
「あのね、妊娠してるの」
「えええ?」
「ごめんね、こんなタイミングで。今日はお互い、いろんな秘密がバレる日だね」

・・・。

「マガちゃん、ムリしなくてもいいからね」

───( ゚A゚ )────

その言葉を聞いた時、脳に染み込んでいたサイケデリックな成分が一気に吹き出してきた。これまでのどんなトリップよりも激しく、世界が揺れ動いた。

俺はガラス戸に数回ぶつかった後、止めようとするナオの手を振り払ってカギを開け、ベランダに出ると、室外機を踏み台にして大きく空へ、自由へとダイヴした。

それは幸せな瞬間だった。

この肉体から離れて、ようやく精神だけの世界に行けるんだ。
サイケデリック体験から目覚めるたびに感じていた、あの肉体の重さ。
これからは永遠に精神の世界を旅できる。
冷めることのない世界。
自由だ。

落下しながら、過去の記憶が蘇ってきた。走馬灯って本当に見えるんだ。ああああああそこにいるのは昔の俺? よく泣かされていた俺? 仕方ないじゃん。体だって弱かったし、まわりにいるのは年上ばかりなんだから。力でかなうわけがない。そういえば体育の球技も嫌いだったな。それは視力が悪かったからなんだけど、視力が悪いからメガネを作りたいとか言うと余計に母親に心配かけるし、別に受験に体育の点は関係ないからどうでもよかったんだよね。あ、大学のときの彼女だ。時間軸がムチャクチャだな。渋谷の千吉でカレーうどん食べてからラブホ行ったのが最初だったな。あのころはふたりでゴスロリみたいな格好してたのに、数年後はヨレヨレで同じ場所を徘徊するなんて、人生は面白いもんだ。あーオナホを捨てておけばよかったな。貯金が少ないのバレると恥ずかしいな。クラブ友達の姿も見える。本名だとか何やってるとかはまるで知らないけれど、素の俺を認めてくれた初めての人たちだ。着ている服装とか学歴とか髪型とか、そんなことには誰もまるで関心がなくて、他人には感心がないのにそこにいてもよい自由なおおらかさがあって、バッドに入ったときには助けてくれて、俺の本当に大好きな人たちだ。どんな環境でも遊んでしまうタフさも学ばせてもらったな。LSDを摂ったときのように思考が多次元になってる。さまざまな思考が同時進行で現れてくる。あああああああ歪む歪む歪む歪む歪む歪むむむむむむむむむむ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいここここここここののののののききき気持ちいいいいいいいいいいい光光光光光光光へ入っていくくくくくくくくくく

光の中でバチン!と世界が白くなり、出産の場面が見えた。あれは俺か。生まれたばかりの俺か。あれ? 違うな。女の子だ。誰だ? 母親はナオ? なんだこれ? 子供・・・子供・・・俺の子供か!!!!!!!!!!! 俺の子供か!!!!!!!!!!! 俺の子供か!!!!!!!!!!!

━━━━━(゚∀゚)━━━━━

バキッ!!!!!!!!!!!

「あ・・・れ・・・?」

走馬灯が消え、青空が逆さまに見えました。天国や地獄の青空ではなく、スカイツリーの先っちょ混みの、見慣れた東京の空。でも、そのまま視界がぐわーっとブラックアウトして、意識を失ってしまいました。

STILL ALIVE

ここから先はナオに聞いた話です。

俺はよほど勢いよく飛び出したらしく、真下に落ちることなく、斜めに飛んで、となりのマンションの屋上にあった家庭菜園の土の上に落下したそうです。そういえば、いつもベランダで吸いながら、「あのスペースがあれば何株栽培できるかな・・・」とか想像してたっけ。

救急車も入院の手続きも、すべてナオがしてくれていて、サイケデリックな修行の成果か、すごく冷静で的確な対応だったそう。あまりに冷静だから、駆けつけた救急隊員に「医療関係者ですか?」と聞かれたらしいです。

警察も来たけれど、「ベランダに付けていた日よけネットを外そうとして足を滑らせた」という理由で「事故扱い」になったらしく、余計な詮索はされずに終わったとのこと。まぁ、飛び降りたときはシラフだったし、怖いものはないのだけど、アタマいいなー。

いろいろな骨が折れているから、とりあえず三ヶ月は入院生活です。精神だけの世界へ行けると思ったのに、肉体に拘束され、肉体が拘束される日々になってしまいました。痛いフリをしてたらケタミンくらいもらえるのかな。夜中に探りに行ってみようかな。

「俺さ、ダイブした瞬間、すっごい幸せだったんだよね。やっと自由になれた気がして」
「そっかー。いまはどんな気持ち?」
「分かんない。とりあえずあちこち痛いし」
「分かんなかったらさ、突き詰めるしかないよね。マガちゃんいつもそう言ってたよね。ワケの分かるものには新しい発見なんてないって」
「そうかもなー」
「そうだよそうだよ」

窓の外に夕日が見えました。

「病院って禁煙だっけ? とりあえず一服したいんだけど」
「手も動かせないクセに、そんなこと言ってんじゃないの!」

ナオはまわりをキョロキョロっと見回すと、ポーチからヴェポライザーを取り出して、スイッチを素早く5回押し、すーっと吸った煙を、口移しに渡してくれました。

「肺に止めといてね。バレたら大変だから!」

それは、これまで試してきたどのトリップよりも濃密な、とても幸せな体験でした。

おしまい。

※この話はフィクションです。たぶん。

あとがきのようなもの

長い話にお付き合いいただき、ありがとうございました。この話は、私が経験した真実に、いくつかの創作を混ぜ合わせて書かれています。

ネタバラシをひとつだけすると、「坂木ナオ」という名前は完全な偽名です。元ネタになっているのは大正生まれのヒッピー・ナナオサカキ。

私の大好きな人なので、名前を拝借しました。

ちょっとラブストーリーみたいになってしまいましたが、私たちは確かにこういう時代を、こういう日常とともに過ごして来ました。

忘れてしまう前に、忘れられる前に、ストーリーとして書き上げたかったのです。バブルの時代やコギャルの青春は映画化されても、サイケデリックな日々は大衆向けじゃないから、ブログとノベルの中間くらいの体裁にしてみました。

ひょっとしたらまた別の思い出も書く、かも。

あの時代を共に過ごしてくれたみんなに大きな感謝を。先に行ってしまったあの人たちに会える日を楽しみにしつつ。ありがとうございました。

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